世界歴史年表

農耕の始まりと、その後に起きたこと

年表のいちばん左、先史の区間は対数の目盛でできていて、何十万年が指一本分に収まっています。ところが前1万年を過ぎたあたりから、項目が急に増えはじめる。何が起きたのでしょうか。農耕です。年表のその場所を拡大しながら、農耕がどこで、どんな順序で始まったのかを見ていきましょう。

一か所ではなく、少なくとも4か所

年表を前1万2000年あたりに合わせてください。西アジアの行に農耕・牧畜の開始。次に右へ送って前8000年ごろ、東アジアの行に長江流域における稲作の開始。さらに前7000年ごろ、南北アメリカの行にメソアメリカにおけるトウモロコシの栽培化。前4500年ごろ、オセアニアの行にクックの初期農耕(ニューギニア高地)。この4か所は、互いに連絡がないまま、それぞれ別の植物を作物に変えました。小麦と大麦、イネ、トウモロコシ、タロイモとバナナです。農耕は人類が一度だけ思いついたことではなく、条件がそろえば複数の場所で起こる。年表はそう読める並び方をしています。

気候が先にある

その4か所の開始時期を、いちばん上の世界規模の行と並べて見てください。約2万年前に最終氷期最盛期、前1万2900年から前1万1700年にヤンガードリアス期の寒冷化、約1万1000年前に更新世末の大型動物の絶滅。農耕の開始は、気候が安定に向かう時期に重なっています。寒冷化が農耕を促したとする説もありますが、年表では因果を断定していません。並べて見える範囲にとどめ、判断は読む人に委ねています。

定住が先か、農耕が先か

ここに、順序をめぐる問題があります。前1万500年ごろのイェリコの定住集落と、前9500年ごろのギョベクリ・テペの石柱建造を見てください。どちらも、農耕が本格化する前の項目です。かつては「農耕で食料が安定したから定住した」と説明されてきました。この二つの遺跡は、その順序に疑問を投げかけています。日本の行にある縄文土器の出現(約1万4000年前)も、農耕より前に食料の加熱と加工が行われていたことを示す項目です。年表では、どちらが先かを決めずに両方を置いています。

水を引くと、都市ができる

前5500年ごろ、西アジアの行にウバイド期の灌漑農耕。川から水を引いて耕地を広げる段階です。灌漑は一人ではできません。水路を維持し、水を配る取り決めが要ります。そのまま年表を右へ送ってください。前3300年ごろに楔形文字の成立、前2900年ごろにシュメールの都市国家群。灌漑のあとに、文字と都市が続いて現れます。同じ形は、ナイル、インダス、黄河・長江の流域にも見られます。

家畜は食べ物だけではない

前3500年ごろ、西アジアの行に馬の家畜化。この項目は、食料としてよりも移動と輸送の手段として結果が大きかったものです。年表を右へ送ってみてください。前209年の匈奴、1206年のモンゴル帝国の成立。遊牧を基盤とする勢力が農耕地帯と繰り返し接触する構図が、何度も現れます。東アジアと西アジアの行には、この接触に関わる項目が長く続いて並びます。

伝わりながら形を変える

前6500年ごろ、ヨーロッパの行に農耕の伝播。前900年ごろ、日本の行に水田稲作の広まり。どちらも、よそで始まった農耕がその土地に定着した項目です。1000年ごろのヨーロッパには三圃制の普及があります。耕地を三つに分けて順に休ませる方式で、収穫が増えました。この項目の前後に何が並んでいるか見てください。ボローニャ大学の成立(1088年)、ハンザ同盟の形成(1241年)。人口が増え、都市が育っていく時期と重なっています。

1500年、作物が大陸をまたぐ

世界規模の行の1500年ごろに、大陸間の作物・家畜の交換があります。トウモロコシ、ジャガイモ、トマト、トウガラシがアメリカ大陸からユーラシアとアフリカへ。小麦、イネ、サトウキビ、ウマ、ウシが逆方向へ。この交換は各地の食べ物と人口を変えました。ただ、同じ行のすぐ隣に、1518年からの感染症の南北アメリカへの伝播が置いてあります。同じ船が両方を運んだ、ということです。

年表を読むときに

農耕に関わる項目には、ほぼすべてに「およそ」が付いています。栽培化は一年で起きることではなく、何百年もかけて植物の形が変わっていく過程だからです。年表に書いてある年は、その過程のどこかを指す目安であって、開始の日付ではありません。それから、農耕を始めなかった地域や、始めてからやめた集団もあります。年表に項目がないことは、そこで何も起きなかったことを意味しません。

この読み物で取り上げた出来事(17件)

年表に収録している項目です。出来事名を押すと、年表のその位置が開きます。補足・背景・帰結・出典は時代別のページに載せています。

年代地域出来事
前20000年世界規模最終氷期最盛期
海水準が現在より約120m低下し、大陸棚が陸化した。
前14000年日本縄文土器の出現
日本列島。世界最古級の土器群のひとつ。
前12900年〜前11700年世界規模ヤンガードリアス期の寒冷化
温暖化の途中で約1200年間、寒冷な気候に戻った。
前12000年〜前9000年西アジア・中東農耕・牧畜の開始(肥沃な三日月地帯)
ムギ類の栽培化とヤギ・ヒツジの家畜化が進行。
前11000年世界規模更新世末の大型動物の絶滅
マンモスなど大型哺乳類が各大陸で減少・消滅した。
前10500年西アジア・中東イェリコの定住集落
ヨルダン川西岸。前10500年頃から定住が始まり、前8000年頃には石壁と塔を伴う集落となった。
前9500年西アジア・中東ギョベクリ・テペの石柱建造
トルコ南東部。農耕開始期の大規模構築物。
前8000年東アジア長江流域における稲作の開始
上山・彭頭山などの遺跡で栽培化の痕跡が確認される。
前7000年南北アメリカメソアメリカにおけるトウモロコシの栽培化
テオシントからの選抜による。
前6500年ヨーロッパヨーロッパへの農耕の伝播
バルカン半島から中欧・西欧へ段階的に広がった。
前5500年〜前3800年西アジア・中東ウバイド期の灌漑農耕
メソポタミア南部で運河による農地開発が進んだ。
前4500年オセアニアクックの初期農耕(ニューギニア高地)
湿地に排水路を掘り、タロイモ・バナナ・ヤムイモを栽培した。
前3500年西アジア・中東馬の家畜化
中央ユーラシアの草原地帯。前3500年頃のボタイ遺跡の例が古いが、現在の家畜馬の系統は前2200年頃に西ユーラシア草原から広がったとする研究がある。
前900年〜前300年日本水田稲作の広まり
九州北部から西日本、東日本へと水田の営みが広がった。開始年代には前10世紀とする説と前5〜4世紀とする説がある。
1000年ヨーロッパ三圃制の普及
耕地を三分して輪作する方式。北ヨーロッパで段階的に広がった。
1500年〜1700年世界規模大陸間の作物・家畜の交換
トウモロコシ・ジャガイモ・トマトが旧大陸へ、コムギ・ウマ・ウシが新大陸へ広がった。
1518年〜1600年世界規模感染症の南北アメリカへの伝播
天然痘・麻疹などが持ち込まれ、先住民の人口が大きく減少した。